映画鑑賞のススメ~読書好きに観て欲しい映画5選~ その3

 現代を代表する娯楽、エンターテインメントである映画。ドラマもアニメもヒットすればすぐに劇場版が制作される時代だ。しかし、そういった商業的戦略での作品とは一線を画す映画を観たい、そう思う人は多いだろう。そんな映画好きな人々に原作への愛を感じる映画を紹介しているこのシリーズ(3回目なのでシリーズと呼んで差支えないだろう)では、前2回で年代、邦画、海外作品問わず10作品を紹介してきた。

映画鑑賞のススメ~読書好きに観て欲しい映画5選~ その2 - 曖昧模糊な世界ーBlur Worldー

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 今回はさらに5作品を紹介していこう。

 

11.『ラム・ダイアリー』(The Rum Diary、2011年)

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 2005年に拳銃自殺した、米ジャーナリストで作家ハンター・S・トンプソンの同名自伝小説をブルース・ロビンソン監督が映画化。テリー・ギリアム監督の『ラスベガスをやっつけろ』(1998年)でもハゲヅラを被ってトンプソンを演じたジョニー・デップが再び彼の役で主演している。

 プエルトリコに仕事で滞在することになった主人公ポール・ケンプが、現地の自由奔放な雰囲気と薬漬けの仕事仲間などに巻き込まれ、ラム酒とドラッグに溺れていく。しかし島を牛耳るサンダーソンの愛人と出会い、さらにサンダーソンの悪行の数々を見ているうちにポールはジャーナリストとしてその闇を暴こうと奮闘する。

 『ラスベガスをやっつけろ』ではハチャメチャでぶっ飛んだ演技が話題となったが、今作はそのハチャメチャさを残しつつもジャーナリストとしての使命に燃えるトンプソンをデップが好演。筆者はデップの作品はかなり観ているが、個人的に一番カッコ良いデップだと思っている。今作での共演をきっかけにデップと結婚した女優アンバー・ハードが彼に惚れたのも頷ける。その後のドタバタ劇とデップの劣化には悲しみしかないが……

 トンプソンは、従来の客観的な手法ではなく、実際に取材対象に接近し主観的な目線で起こることを描いていく「ゴンゾー・ジャーナリズム」と呼ばれる手法で現代の米ニュー・ジャーナリズムのパイオニアとして『ローリング・ストーン』、『ネーション』、『タイム』などで活躍した。

12.『つぐみ』(1990年)

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 吉本ばななの青春小説『TUGUMI』(中央公論社、1989年)を市川準監督が映画化。病弱な少女つぐみが、夏に帰省してきた従姉妹のまりあと再会したひと夏を描く。親族の間では粗暴で意味不明の行動ばかりを起こし厄介者扱いされるつぐみ。そんなつぐみが浜辺で地元のヤンキーに絡まれているところを恭一という青年が助け、二人は恋仲へと発展していく。

 つぐみを演じた牧瀬里穂が本当に素晴らし過ぎる。恭一を演じる真田広之も若くて好青年ぶりがすごい、今を知るからこそ楽しめると同時に、東京を舞台に録ってきた市川監督が初めて東京から出て西伊豆を舞台にした作品としても希少で興味深い。

 原作の『TUGUMI』は第2回山本周五郎賞を受賞した。吉本ばななは、批評家の吉本隆明の娘としても有名で23歳のときに『キッチン』が「第6回海燕新人文学賞」を受賞し同作でデビュー。以後、映画化された『アルゼンチンババア』など数々の作品を執筆し、イタリアでも文学賞を受賞するなど海外にファンも多い。今作も『Goodbye Tsugumi』という題で英訳されている。

13.『ノーカントリー』(No Country for Old Men、2007年)

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 現代米文学を代表する作家コーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国』(原題: No Country for Old Men、扶桑社ミステリー文庫、2005年)を数々の名作を生み出して来た、映画界を代表するジョエル・コーエンイーサン・コーエンコーエン兄弟が映画化。2007年度の第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞で4冠を受賞している。

 アメリカとメキシコの国境沿いであるテキサス州西部を舞台に、トミー・リー・ジョーンズが演じる保安官エドトム・ベルの語りで物語が展開していく。麻薬取引で交渉が決裂し全員が撃ち殺し合った現場に居合わせた、ジョシュ・ブローリン演じるトレーラーハウス暮らしのベトナム帰還兵ルウェリン・モスが大金の入ったブリーフケースを手にし、その金をハビエル・バルデム演じる殺し屋のアントン・シガーがモスを徐々に追い詰めていく逃亡劇。

 ガスボンベの圧力でドアのカギ穴ごと飛ばし身体を貫通させて殺したり、コイントスで死か生を選ばせる狂気の殺人鬼シガーをハビエル・バルデムが見事に演じきっている。最後の無常さも単なるエンタメで終わらせない文学的な奥深さを感じさせているところが憎い。

14.『ハイ・フィデリティ』(High Fidelity、2000年)

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 英小説家でエッセイストのニック・ホーンビィが1995年に発表した同名原作をスティーヴン・フリアーズ監督が映画化。ジョン・キューザック演じる主人公ロブ・ゴードンは、シカゴで小さな中古レコード・ショップのオーナーをする30代の独身男。イーベン・ヤイレ演じる同棲中の彼女ローラが出て行ってしまったことを機に、ロブは過去に付き合ってきた歴代彼女たちに再び連絡を取り自分の何がいけなかったのか探る。往年のロックナンバーが散りばめられ、ブルース・スプリングスティーンカメオ出演している。

 原作ではロンドンが舞台だが、映画ではシカゴが舞台に変更されている。ジョン・キューザックももちろん素晴らしいのだが、ジャック・ブラック演じる、レコード店員のバリーが最高すぎる。

 ニック・ホーンビィは『アバウト・ア・ボーイ』などこれまでに4作品が映画化され、2009年の『17歳の肖像』でアカデミー賞脚色賞にノミネートされるなど脚本家としても活躍している。また、ファンを公言していたベン・フォールズと連名で作詞を担当したアルバム『ロンリー・アヴェニュー』(2010年)を発表するなど音楽にも造詣が深い。

15.『パーマネント野ばら』(2010年)

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 西原理恵子の同名原作漫画(2006年、新潮社)を吉田大八監督が映画化。田舎の漁村にある唯一の美容院「パーマネント野ばら」に、離婚し娘のももちゃんを連れ帰り身を寄せている菅野美穂演じる主人公なおことパーマネント野ばらに訪れる、個性的な漁村の女性たちが苦難に満ちた人生を涙にくれながらも力強く生きる様を描く。

 筆者は現在、吉田大八監督(『桐島、部活やめるってよ』のブレイクで周知ではあろう)は原作作品を映画化する上で日本最高の監督だと思っている。さらに、脚本を担当した奥寺佐渡子(『八日目の蝉』、『おおかみこどもの雨と雪』など担当)も最高の脚本家だと考えているので、この二人のタッグが悪くなるはずがない。

 西原理恵子と言えば、元夫であるフォトジャーナリスト鴨志田穣氏と家族との生活を描いて映画化もされた『毎日かあさん』などで名の知れた漫画家。その作風はブラックユーモアに溢れているが、素朴でクスリと笑える庶民的な親しみやすさがある。

 今作でもなおこをはじめ、池脇千鶴が演じる同級生ともちゃんや小池栄子演じるみっちゃんなどDVや薬物中毒で苦しみながらも明るくユーモラスに逞しく生きる姿が印象的だ。そんな中で、なおこが想いを寄せる江口洋介演じるカシマとなおこの秘密がミステリアスで作品に深みを与えている。ラストのカタルシスが吉田監督らしい。

 いかがだっただろうか。今回は例外的に漫画作品も取り上げたが、現代における漫画はもはや文学的にも一定の評価を持つジャンルとなっているので今後、筆者のアンテナに引っ掛かった作品は積極的に取り上げていきたいと考えている。