映画鑑賞のススメ~読書好きに観て欲しい映画5選~ その7

  世界中が新型コロナウィルスのパンデミックで混乱している今、自宅で過ごす最良の方法として動画配信などで手軽になった映画鑑賞を推奨したい。そこで興味を抱いたら、ついでに原作本を購入して読むふけるのもいいだろう。このシリーズでは、小説や漫画などの原作を映像化した魅力的な作品を前6回で年代、邦画、海外作品問わず30作品を紹介してきた。

 今回もさらに5作品を紹介していく。

31.『ふがいない僕は空を見た』(2017年)

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 窪美澄による同名原作『ふがいない僕は空を見た』(2011年、新潮社)をタナダユキ監督が映画化。窪美澄は2009年に今作に含まれる「ミクマリ」で第8回R-18文学賞を受賞しデビュー。今作で第24回山本周五郎賞を受賞している。

 高校生の卓巳は同人誌即売会で知り合った人妻の里美とコスプレ・プレイで不倫していたが、同級生の七菜に告白され里美との密会を止める。しかし、ベビー用品売り場にいた里美を見かけ、卓巳は自分との子どもができたのではないかと慌てる。さらに里美の不倫に気づいた夫の慶一郎に寝室を隠し撮りされた映像がネットに上がる。卓巳の友人である良太がその映像の入ったコピーディスクをバラまいてしまう。そして卓巳は不登校になるが…。

 コスプレや不妊治療やネット、貧困問題など現代ではもはや固定化されてしまった社会問題を抱え苦悶する人々を10年前に、しかもデビュー作でここまで書けていたというのは凄いと思う。

32.『バロン』(The Adventures of Baron Munchausen、2003年)

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 実在したカール・フリードリヒ・ヒエロニムス・フォン・ミュンヒハウゼン男爵をモデルにしたドイツ民話『ほら吹き男爵の冒険』をテリー・ギリアム監督がファンタジーとして映像化した。

 ミュンヒハウゼン男爵は18世紀のプロイセン貴族。ロシアに渡り軍騎兵大尉まで昇りつめるが実家を継ぐためプロイセンに戻りそのまま余生を過ごした。彼は話好きで館に人を集めてはフィクションを織り交ぜた自身の体験談を語り、その話を何者かが記録したものが『ほら吹き男爵の冒険』である。しかし、その後19世紀に様々な作家が大幅に加筆を加えており100以上のバリエーションが存在するという。1943年、ナチス政権下のドイツでウーファによって『ほら男爵の冒険』として映画化されている。

 トルコに攻撃される18世紀後半のドイツを舞台に、ジョン・ネヴィル演じる老人バロンがこの戦争の原因は自分にあると主張し語られる回想録。4人の家来である俊足のバートホールド、遠目の射撃の名手アドルファス、驚異的な肺活量を持つ小人グスタヴァス、怪力の大男アルブレヒトの活躍から気球に乗って訪れた月での摩訶不思議な体験などファンタジー好きにはたまらない世界観。

 セルバンテスの大作『ドン・キホーテ』をベースにした最新作『テリー・ギリアムドン・キホーテ』を発表したギリアム。代表作『未来世紀ブラジル』のSF仕立ても魅力だが、筆者はやはり彼のファンタジー要素溢れる世界が好きだということを再確認した。

33.『きっと、星のせいじゃない。』(THE FAULT IN OUR STARS、2014年)

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 米作家ジョン・グリーンの青春小説『さよならを待つふたりのために』(The Fault in Our Stars、2012年)をジョシュ・ブーン監督が『(500)日のサマー』の脚本で知られるスコット・ノイスタッターマイケル・H・ウェバーの二人の共同脚本で映画化。

 小児がんに侵された主人公のは自分が周りに気を遣わせると壁を作っている。心配する母のががん患者のサークルにを連れていく。そこで骨肉腫で右足を失ったと出会う。つれない態度のにもめげずにフレンドリーに接してくるにも心を許していく。

 どうしてもシリアスになりがちな“がん”をテーマにしながらも恋愛と愛読書の作家が絡んでくることによって構えなくてもスッと入ってくる物語に好感が持てる。

34.『ゴーストライター』(The Ghost、2015年)

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  英ジャーナリストで作家のロバート・ハリスの『ゴーストライター』をロマン・ポランスキーが映画化。元英国首相のアダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自伝小説の執筆を依頼されたゴーストライターユアン・マクレガー)がフェリー事故で亡くなった前任者の原稿とアダムや関係者への取材を進めていく内に国家を揺るがす秘密を知り、その陰謀に巻き込まれていく。

 ジャーナリストだけあって政治的主題を取り扱いながらも臨場感と躍動感がある物語を作り上げるあたりは流石。ロマン・ポランスキーの恐怖を演出するカット割りも最高。日本の映画だと、政治はどうしても官僚的、組織的な物語になりがちで感情移入がしにくい。『新聞記者』はそういう意味で評価されたのだろう。

35.『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008年)

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 森博嗣の同名原作(2001年、中央公論新社)に続く長編5作と短編集からなるスカイ・クロラシリーズを押井守監督がアニメーションで映画化。映画では結末が異なるものの、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』と『ナ・バ・テア None But Air』(2004年、中央公論新社)のストーリーが採用されている。

 戦争を会社が代理したり、年を取らない「キルドレ」というパイロットたちは感情を抑制されたような淡々としたゲームのような世界の中で永遠に生き続ける。そんな世界で新しく転属してきたパイロット函南優一(カンナミ・ユーヒチ)が基地の女性指揮官である草薙水素(クサナギ・スイト)と互いに意識し合い、彼らの感じる世界が少しづつ変わっていく。

 函南がバイクに乗って橋を渡り、パイを食べに店に行く描写は何か既視感あると思ったら『トップガン』(1986年)だった。女性指揮官とパイロットの関係といい、戦闘機ものの古典となっているのだろう。7月に続編となる『トップガン マーヴェリック』が公開されるのもその根強い人気の証左だ。

 まだまだ新型コロナの不安は解消されそうにないが、こういう時期だからこそ普段は娯楽として、“不要不急”のこととして捉えられている文化の大切さを再確認できるのではないだろうか。イベントやライブの自粛で存続そのものが危惧されるクリエイターや関係者の生活は、私たちが“遊び金”として消費しているその金銭で成り立っている。会社勤めの人が日々満員電車に揺られて出社するように、クリエイターは毎日作品について考え創り出し、イベント関係者は場所を確保し宣伝活動し何カ月、何年という月日をかけて一つの舞台を完成させる。この記事が非日常を彩る文化活動のかけがえのなさをいま一度考える一助になれば幸いだ。そういう“非日常”を楽しめる日常生活が戻ってくることを祈る。