BFC感想【Dグループ】

ブンゲイファイトクラブ3の感想を引き続き書いていく。BFCについてはhttps://blog.hatena.ne.jp/blurmatsuo/blurmatsuo.hatenablog.com/edit?entry=13574176438036270403を参照にしてほしい。

 

イカの壁」鮭さん

 センス・オブ・ワンダーイカの調理をする家庭科の授業光景からここまで発展する意味が分からない。語り手の口調はツッコミのように冷静で、空飛ぶイカの襲来も想像しやすく描写されているところはもちろん、村上がまな板上のイカに“ポンポ”と名付けるやいなや、自身も情がうつってしまうあたりが素晴らしい。最後まで泣きわめく村上、イカに一人毅然と立ち向かう先生、なぜかイカの意志を読み取る愛さん、と一人ひとりのキャラも立っていて物語にドライヴ感がある。

「生きている(と思われる)もの」瀬戸千歳

 怪奇ものでありながら、ポップな感じをまとったところが好印象。背後霊を数えるバイト、というシチュエーションがピカイチ。その中で、人の型をした光が様々な霊を追い払っていく描写が不穏さを煽るというラストが秀逸。それすらもあまり深刻に捉えない語り手と、依頼主の大月の会話がこの絶妙なバランスを保っている。

「お節」小林かをる

 育ちも家柄も違う嫁入り先でのゴタゴタという、一見ありふれた問題を軽妙に、しかし、義理の姉の一人息子である理一郎の自死という重い出来事を入れ込みつつ、彼らの心情の変化を巧みに抑えた文体で表している。最後の一文には毒が効いていて最高。

カニ浄土」生方友里恵

 きつい方言を話すカニ漁に勤しむ男と海辺の情景を描く冒頭で、どこか片田舎を思い浮かべていると、男の名前がXXQで軌道エレベーターの見える景色が現れ、一気にSFの世界へと情景が一変するカタルシス。流れる時間と重力の違い、入植者の絶望、一見のどかな風景も残酷に移ろい、あくまで研究に徹する語り手の突き放すまなざしが効果的である。

「明星」藤崎ほつま

 学園での百合ものかと思わせる冒頭から突然、吸血鬼の話がねじ込まれて読者を引き込む転換がすごい。囲碁打ち、葬式という渋い演出のギャップから「はないちもんめ」の文言に織り込む初期スクールカーストのやり取りも上手い。吸血鬼に引っ張られそうなシチュエーションで最後の明星の描写がエモーショナルに響く。

「欄雪記」伊島糸雨

 造語で植物を擬人化するという世界観の掲示に度肝を抜かれた。その中で奇異に走らず、抑揚された語り口が澄んだ映像感を生み出す。6枚という限られた字数で深淵かつ広大な世界を描き出すことに成功している。ただ、植物の生殖には他の動物や環境を介するという決定的な違いがあるので、その辺りがここに反映されているところが読みたかったという個人的な願望はあった。